忘れなそ、ふるさとの山河 〜郷土史編〜

地方の精神と国のかたち、都市は地方の接ぎ木である。

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春告鳥

 二年前、「母のツバメ」を書いた。今でも一番気に入っている文章かもしれない。その「春告鳥」が昨年は母の家に営巣しなかった。蛇に狙われた記憶が残っていたのだろう、戻らなかった。母は一人ぼっちになった。

 それが今年はツバメに加えスズメも母の家に戻ってきた。ツバメは二年前にここに産まれた三番子までのいずれかの一羽なのだ。二年の時を置いて遥か南方から飛来し、巣立った母の家を探し出す能力は大したものだ。その抱卵の姿は神々しくさえある。もっとも世代を重ねて毎年同じ場所まで五千キロを旅する蝶がいるくらいだから動物の能力は計り知れない。

 はたくほどいたスズメも田んぼから消えていたが、不思議なことに今年はそこらじゅうで五月蝿く啼いている。

 里山に人気が無くなって久しい。ツバメやスズメは人が始終出入りする家に居着く。多くの人家に人がいなくなり、これらの鳥達も共に里山から消えていく。いたとしても一人住まいで表に出る事の少ない母の家が営巣場所として選ばれる確率は低い。なにより家の賑わいが必要なのだから。

 今年はツバメもスズメもその母一人の家にも飛来した。ツバメは既に卵を産み、側では遅れじとスズメが巣作りの材料をせっせと軒裏に運び込んでいる。その健気さに見飽きることはない。母は今年は一人ではない。

 いや待て。これは自分のこの時期の帰省が影響しているのではないか。彼らは母の家の人数が二倍に増えた事を知ったのだ。母の家は一人暮らしの多いこの里山で彼らの選択肢の上位に躍り出たのだ。悪い気はしない。「春告男」になった気分だ。

 ツバメは通常三番子まで卵を産む。夏の終わりまで玄関に賑わいが途切れる事はないだろう。だが軒先のスズメよ、気をつけた方がいい。高い確率で青大将に狙われる。青大将にとって軒に這い上るのは容易い事なのだ。玄関の上に営巣するツバメにとっても隣の軒先で起こりうる事態は心穏やかなことではないだろう。来年も営巣すべきか否かいずれ選択を迫られることになる。

 まあ待て。今年はスズメが多い分、ツバメが狙われる確率は低い。二年前は側にスズメはいなかったのだから。それに何より今は俺がいる。