忘れなそ、ふるさとの山河 〜郷土史編〜

地方の精神と国のかたち、都市は地方の接ぎ木である。

“豊後のロレンス”のブログを訪問頂きありがとうございます。 望郷の念止み難く、豊後及び佐伯地方の郷土史研究と銘打って日々の想いを綴っております。たまには別館ブログ(リンク先)でcoffee breakしてみて下さい。読者になって頂ければ励みになります。

地方選に想う

 女性たちの熱い戦いが終わった。

f:id:Bungologist:20210415225603p:plain
f:id:Bungologist:20210415225629p:plain
佐伯市俯瞰

 我が故郷佐伯市長選のことである。静かな街は久方振りの”祭り” に湧いたことだろう。前回の無風選挙から、今回は一転、現役に三名の新人が挑戦した。そのうちの一人が女性候補で”大分県初の女性市長実現を”、と銘打って(かどうかは定かではないが)、ともかくも女性たちが立ち上がった。結果は善戦であろう。奮戦といえるかもしれない<図1>。この保守的な地方で女性が立ち上がった事実に注目せざるを得ない。何かが胎動していたのであろう。新市長はこの胎動を鎮めさせてはならないだろう。胎動の根源を見つめ、市政に反映させていく責務を課されたことをこの得票率が突き付けた。女性たちもまた、溜まったエネルギーを解放したことに気を緩めてはいけない。これだけの支援者がいた。こちらもそれなりの責務を負うべきであろう。 

 少なくとも新たなエネルギーの温床が存在した事実から目を逸らせない。市政の重要な課題になったことは確実である。いずれもが、心してこれからの市政に臨むべきことは言を待たない。 

f:id:Bungologist:20210415225212p:plain
f:id:Bungologist:20210415225303p:plain
<図1> 投票結果

 それにしても人口の85% が有権者であることの意味するところは何であろうか、歯止めの効かない高齢化という事であろう。広大な面積を有する市である。市内を除けば広大な僻地といえる地域に多くの高齢者が弧住する比率が高い<図2>。投票所に行くことが難しい人もいるに違いない。それでも投票数は微々たるもので候補者の食指も動かなかったに違いない(失敬な言草に違いない)。地方の悲しい現実でもある。 

 投票率は67%であった。昔は常に90%台であったと聞く。これにNHK の視聴率が高い数値で続いたものだ。

f:id:Bungologist:20210415235849p:plain

<図2> 地区別人口と老齢者比率
f:id:Bungologist:20210415235941p:plain
f:id:Bungologist:20210416000012p:plain
<図3> 地区別人口比率と年代別人口構成

 さて佐伯地方についてこの機に考えてみた。高齢者比率が高い(65 歳以上、40%)<図3>、山間部では56%に達する地域もある<図2>。生産活動の低下であり、社会的費用の増加ということになる。換言すると若手人口(20 歳以下が23%)が低く、この地方の将来の成長阻害要因であり(出生数の減少)、経済再生産力の低下ということになる。生産活動に伴う税収比率が低い(15%)。経済活動が不活性で生産従事者も減少しているということである。財政の補助金・地方債への依存が高い(68%)。財政の破綻リスクが高いということである。 

 候補者は以上の視点で論戦を張ったのではないかと推察する。何より成長投資が最重要課題であることは言うまでもない。人口減を抑制し成長の源泉をどこに求めていくか、日本の地方に共通の難しいが掲げざるを得ない課題である。最早、公共投資ではないだろう。人口減に反比例して老朽化したインフラの維持管理に今後とも費用を注ぎ込まざるを得ない状況を冷静に見つめるべきであろう。やはり人を惹きつける魅力化投資ということになるのだろう。ソフトへの投資である。 

 足元においては、”鮭の回帰”を目指すことであろうか。若い世代が旅立って後にも、いずれ必ず故郷に回帰してくる施策を考えたいところである。筆者はこの歳になると望郷の念止み難し、まさに老いた鮭の心境なのである。もっとも男に限ったことかもしれない(誰かが女性は振り返りもしない、と慨嘆していた)。女性達も回帰させねばならない。 

 多くの産業がマイナス成長である中、唯一、観光産業だけが成長の兆しを見せていた。光明である。 

f:id:Bungologist:20210413115434p:plain
f:id:Bungologist:20210413115445p:plain
f:id:Bungologist:20210413115514p:plain
f:id:Bungologist:20210413115527p:plain
佐伯地方の景観

 さて、話は飛躍するが、これまで”地方の精神”について考えてきた。今やそれは確信に近い思いとなった。地方の精神、それは疲弊し衰退の道を辿る故郷の現実に対する焦燥感、無力感と表裏をなすものでもある。その暮らしの中に息づいてきた知恵や固有文化や自然感といったものが、いつの間にか気づかれることなくひっそりとこの地上から消え去っていっている。それは連綿として世代毎に継承されてきた暮らしの価値、ソフトウェアといえるものであった。その継承が急速に困難な状況に至っている。焦燥感や無力感は、我々がこの事実を黙認し、且つ、座視していることと無縁ではない。 

 一方、この価値の消失は、単に地方に限定されたものではなく、日本の国の建付けに不可欠な価値の消失ということである。多くの地方において、取り返しのつかない深刻な病理が進行している。自分の生を育んでもらった筆者のような地方出身者は、一様に病床に伏す故郷の姿に胸を締め付けられる思いにあるのではないだろうか。都会出身者にとっては甚だ迷惑な論理であろうが、それはこの国に最重要な哲理に繋がる命題であり、それ故に我々は共に考える義務を負っているということである。誰しもそのルーツは同じところに発する(地方から都市への移動と定住)。また、その価値は既に消失してしまったのではなく、どこかに喪失しているだけかもしれないのである。丁寧に掘り起こしてあらためて磨いてやらねばならない。 

 さて、女性達の熱い戦いを横目で見ていた地元及び地元を出奔して、今また故郷を恋うる”望郷の男達”はどう行動したらよいのであろうか。その居場所は奈辺にあるのだろう。

<ともに考え行動したい事>

 ① 地方の固有文化への関心 ~その発掘と継承 

 ② 地方の自然環境の保全 ~その再生と活用 

 ③ 地方への人材の回遊・回帰 ~その豊かなるものの発見 

 ④ 地方と日本の不可分性 ~その原点とあるべき理念 

言うは易く行うは難し、ではある。しかしながら、これこそが女性達を見返す男の一戦ということと肝に銘じておきたいものだ。ままならない自分が歯痒いが、故郷の魅力化投資と“鮭の回帰”について考えさせられた女性達の一戦であった。 

f:id:Bungologist:20210413115715p:plain
f:id:Bungologist:20210413115734p:plain
f:id:Bungologist:20210413115832p:plain
f:id:Bungologist:20210413115844p:plain
佐伯地方のグルメ

 

f:id:Bungologist:20210413115857p:plain

日本の道百選(佐伯城下)

 

                                     了